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Medical column とまこまい医報

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昔は少なかった子どものストレス関連障害(その2)

昔は少なかった子どものストレス関連障害(その2)

高橋 義男

(苫小牧市医師会・とまこまい脳神経外科)

―大事なことは傾聴と受容と共感である…―

 

 ストレス関連障害は、ストレスに体が反応して抑うつをはじめ、頭痛や腹痛、腰痛などの痛み、まひ、けいれんなどの身体症状まで多彩な現象や症状を出すもので適応障害、身体表現性障害(身体症状症)とされる。この現象は人ごとではなく、誰にでも生じ得、今の時代の地域社会問題で、医療関係者、周囲の人々はこの現象の本質を理解し、本人と共に乗り越えていくという現実的対応が必要とされる。

 今回は診断の仕方と実際の対応、特に地域内対応について報告する。内容の関係上、様似中学校養護教諭石丸加奈先生、早来中学校吉多千明先生、浦河カイロプラクティックオフィス「MARU」丸山智弘先生からご助言を頂いた。

 5.診断と対応と配慮

 ストレス関連障害は体の現象や反応が明らかであるのに、画像を含めた一般的な臨床検査で異常を認めず、症状を説明する疾患を特定できない、医学的に判断が難しい身体状態である。

 診断は発症までの経過や生活状況、症状の推移、治療と本人の変化などから判断される。ストレス関連障害で問題なことは医学的に対応すべき疾患がなくとも当事者にとってはしびれや痛み、まひ、けいれんなどが苦痛なことである。放置は悪化を招き、生活に明らかな支障を来す。改善が得られない場合は症状が続き、抑うつ、引きこもりなど含め、明らかな障害となる。

 対応の仕方には二つのポイントがある。最も大切なことは地域社会問題であるという認識である。本人のみならず、親を含めたみんなで対応に取り組む(共通理解)ことと家庭、学校、地域などの分析と理解と前向きな配慮が重要である。経験的にはその過程で本人は周囲に信頼を取り戻し、安堵(あんど)し、症状が減少ないし消失する(環境改善と調整)。もう一つのポイントは抑制、予防としての情報への配慮である。多くの場合原因が人間関係、環境因子、個人の資質などであるからその情報、認識をどの範囲の人まで共有するかである(情報の管理)。また、本人が障害という言葉でさらに落ち込むということがあるので本人への言動、対応にも注意する。

 流れとしては本人の回復を見ながら自覚を促し、本人自身に分析、状況判断の力を付けさせる。誰にでも起こり得ること、乗り越えることが成長であること、人生の糧となることなどを話し育てることを主軸にする。

 ストレス関連障害での注意点は常に症状を説明し得る疾患がないかを心掛けることで、決め付けは避ける。他院相談例で中学生に脳梗塞、高校生に脳動静脈奇形のあったことがあり、少なくとも磁気共鳴画像装置(MRI)の検査は経時的に行う。

 6.地域の中での実際の対応と治療

 まず行うことは本人に寄り添い、症状を呈するまでの経過と状況を把握し、分析することである。加えて成育歴や親の性格を含めた家庭内状況、学校内活動と担任を含めた指導者の特徴、交友関係なども把握する。これらの流れの中で大事なことは傾聴と受容と共感である。知ったかぶりの聴取、一般的な投薬、休息などを前提としたカウンセリングではなかなかうまくいかない。本人と一体化した態度が心の扉を開かせる。

 周囲の人々の心構えとして、この現象は今の社会だから起こり得ることなどを周囲の人々は繰り返し認識し、みんなで未知の分野に取り組むという姿勢で解決法を探る。この経過を時系列にし、どの場面をどう改善すべきか、場合によってケース会議を行って対応する。中~高校生の意見なども聞く。同時並行的に本人がどう行動すべきかなど認知行動療法を行う。うまくいかない場合は周囲環境の配慮と勇気づけを繰り返し、誰が味方になるかなども教えて生活を前向きに捉えさせるようにする。

 少し落ち着いた後の本人の生活内容への努力は重要で、睡眠が難しくとも朝起きは確実にし、自分の部屋の掃除や勉強もさせ、自己肯定感を醸成する。このように、本人を含め周囲がストレス関連障害をいわゆる病気や障害などのイメージにはめないことが肝要である。

 薬物は無効なことが多いが、場合によっては導入を円滑にするために抗不安剤を用いたり、長引く場合は抗うつ剤を使う。朝起きが確実にでき、睡眠が取れ、目に輝きが見えるようになってくると先が見えてくる。

次の機会には地域対応の課題と地域内リハビリの実際について報告する。

2019年06月12日 苫小牧民報 掲載

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