認知症は治療、それとも予防?
佐藤 寛
(苫小牧市医師会・道央佐藤病院)
佐藤 寛
(苫小牧市医師会・道央佐藤病院)
認知症の新しい治療薬が承認され、最近多くのニュースで取り上げられています。診療の場面でも、よくこのお薬に関して質問を受けます。これまでの認知症の治療薬はあくまで対症療法(一時的に病気の症状を和らげるためのもの)でした。確かに、今回の新薬は初めてアルツハイマー型認知症の原因物質を除く作用があり、病気の進行速度を緩やかにすると報告されており、近年の認知症治療の中で大きな進展だと思います。
ただし、ここで注意しなくてはならないのが、認知症は進行性の病気であり、一度進んでしまった病気は巻き戻すことはできません。新しいお薬も、治療の対象となるのは「初期」の認知症(いわゆる、軽度認知機能障害)とされています。
そして今回承認される基となった研究報告は、18ヶ月間の調査であり、はたして認知症という病気の性質を考えたときに、長期的な効果はまだまだ疑問が残ります。また、その効果としても、認知症の重症度を評価する尺度(18点満点)でたったの0.45点の差があったという程度です。日本ではまだ新薬の値段は決まっていませんが、アメリカでは一人あたり年間約390万円の費用が必要と試算されています。今後、超高齢化社会がさらに進んでいく中で、その費用対効果は妥当なのでしょうか。
予防は治療に勝るといいます。では、認知症を予防するためには何がいいのでしょうか。認知症の危険因子としては、頭部外傷、肥満、高血圧、糖尿病、うつ病、睡眠障害などがあります。つまりは、健康的なライフスタイルを心がけることが一番重要です。特に、有酸素運動(ウォーキング、ジョギング、水泳、体操など)の有用性は多く報告され、中にはアルツハイマー型認知症の発症リスクを45%も低減するとの研究もあります。諸説ありますが、運動によって脳の神経細胞間のネットワークを強化する作用のある物質や、記憶システムに重要な物質が増えると考えられています。運動を習慣づけるのは中々難しいですが、身近にできることから始めるのがいいと思います。例えば、できるだけ階段をつかう、近所のゴミ拾いや掃除をする、歩いて買い物に行く、冬は雪かきをするなど、なんでもいいのでまずは一歩踏み出してみましょう!!これなら費用もかからず、認知症の予防だけでなく、生活習慣病の予防にもつながり、より健康的なシニアライフを手に入れることが期待できるのではないでしょうか。
2023年11月14日 苫小牧民報 掲載