市民の皆様へ

Medical column とまこまい医報

とまこまい医報

増え続ける大人の発達障害と対応(その1) ―成長過程を見直す事といかに就労意欲を高めるか-

増え続ける大人の発達障害と対応(その1) ―成長過程を見直す事といかに就労意欲を高めるか-

高橋 義男

(苫小牧市医師会・とまこまい脳神経外科)

〈はじめに〉

時代の変化(利己主義、大衆迎合主義、家族の孤立化)、生活の変化(ゲーム、ネット社会、情報化社会)、子育ての変化は脳に影響をもたらす(子どもを育てられない親、子どもの脳に傷をつける親達:NHK出版新書)。

今の時代は記憶のできない子、忘れものだらけの子、片づけられない子、家の手伝いや勉強はしないがゲームや好きなことだけする子、感情のコントロールが出来ずすぐキレる子など不思議な子どもたちが増えている。先天的な原因だけではなく、色々な事を覚える時期に脳にその能力をつけなかったことが主な理由と考えられる。60数年来のおかしな人間社会の流れは改善されることなく現在に至り、結果として子どもの発達障害が増え、必然として大人の発達障害も増えている(前回平成30年1月24日 本紙上)。子どもだけではなく大人の発達障害の受診があまりにも増加しているので、どう関わっていくのか地域問題として再び提起する。

1.大人の発達障害の診断と対応

小さい時から多動で、親や周囲のコントロールが難しい場合は、ADHD(注意欠如多動性障害)と診断され、早期より療育プログラムにのるが、軽度やグレーゾーンの場合は、障がいが見え隠れしながら成長し、大人になって周囲が違和感を持つ。子どもの頃は周囲の対応などもあって何とか通り過ぎるが、社会では明らかなルールがあり、自分で状況を理解し、判断し、思いを伝えるなどが必要なため、就労や結婚生活に支障が出て対応が迫られる。

注意しても仕事の内容、手順がなかなか覚えられない。状況が変わると順応ができず、仕事が成り立たない。言われたことも出来ない、なのに仕事ができていると過信している。状況判断が乏しいため(空気が読めない)、人間関係がうまくいかず、孤立するが、本人に気にする様子がなく周囲に相談する事もない。周囲が見かねて様々な対応をしてもこだわりがあり、問題を分析しないため失敗を繰り返す。注意・指導が多くなると仕事を休む。その反面、休暇などの権利の取得には積極的である。この様な状況は大人の社会では違和感があり、職場や周囲に勧められ受診する。

診断は症状に加え、成育歴、病歴、大人の発達障害スクリーニングテスト、MRI所見などから為され、生活内容の見直し、職場内での対応などが行われる。成人期に初めて発症する発達障害は少ないため、判断は比較的容易で、ほとんどの場合幼少期より兆候が見られることや特異な現象から診断される。

大人の発達障害の約半数は状況分析による認知行動療法、薬物治療とカウンセリング、コーチング(就労意欲の促進)で改善する。就労するには状況判断能力と、コミュニケーション能力、予測、推測能力そして我慢、協調、妥協が必要で、状況を素直に応受し、相手を理解し、思っていることを説明し、仕事の段取りを立て、スピーディーに労務を処理し、それに伴う自己肯定感を得る自己努力が必要である。問題なのは、情報化社会の影響で発達障害を自ら調べ、思い込み、不得意、出来ないことを個性として当たり前とし、努力せず、仕事を覚えようとせず、働きやすくしてくれない雇用側をとりあげ解決困難な障がい者になろうとする場合である。

発達障害にある状況判断能力の乏しさ、コミュニケーション能力の低さは一見解決困難にみえるが、本人の気付きと推測力の訓練、意欲(モチベーション)を高めることと周囲の対応で改善は可能である。人間は教わって育つ動物なので、年齢に関係なくそれを創り出すことが医療関係者を含めた私たち周囲の責務である。社会生活に困難を生じても、生きづらさがあってもお互いの努力で多様性の中“普通”は創れるし、創りたい。上手くできない場合は障害者雇用枠なども検討するが、地域社会自体が本来持つ“もちつもたれつ”、“お互い様”という人間社会の多様性の価値観をとり戻すことが重要である。

次回に患者さんとその対応状況を報告する。

2021年10月27日 苫小牧民報 掲載

  • 医療・介護サービス提供マップ
  • 苫小牧看護専門学校
  • とまこまい医療介護連携センター
  • 公益社団法人 日本医師会公式チャンネル
ページの上部へ