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Medical column とまこまい医報

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高齢者の難聴

高齢者の難聴

志津木 健

(苫小牧市医師会・苫小牧市立病院)

聴力の加齢変化は誰にも訪れます。内耳というセンサーの機能低下が原因です。聴力検査では60歳ぐらいから高音部の聞き取りが悪くなって来ますが、かなり個人差があります。家での会話は大丈夫だが、周りがうるさいと聞き取れない。距離のある人の話は聞き取れない。アナウンサーなら聞こえるが、早口の芸能人だと聞き取れない。という方が多いかもしれません。補聴器をお使いの方も多いと思いますが、音は入って来ても肝心の言葉が聞き取れないというご不満が多いものです。こういった現象は何故起きるのでしょうか。耳鼻咽喉科の聴力検査で測定しているのは、周波数別に、どれぐらい小さい音まで聞き取れるかという音の大きさの数字「デシベル」です。しかし、実際の会話の聞き取りはもっと複雑で、内耳は音声の周波数の違いを聞き分け、千分の1秒単位の音の変化を聞き分ける難しい仕事をしています。こうした音の違いや変化の聞き分けによって、「あいうえお」といった言葉の聞き取りを可能にしているのです。ここが加齢によって衰えてきますので、音は入ってくるのに言葉が聞き取れない、雑音の中で聞き分けられない、スピードの速い言葉を聞き取れないという現象が出てくるのです。これに対して補聴器は何ができるかというと、音量アップしかできません。周波数別に適度にアップさせて、内耳に音を届けます。しかし、音の周波数の聞き分けや、変化の聞き分けは、機械が助けてくれるわけではなく、内耳が頑張るしかないのです。これが、多くの高齢者に難しいわけです。もし補聴器で解決しないなら、どうしたら良いか。手が2つあります。1つは相手との距離を詰めること。これで、周りの雑音の影響が少なくなります。オーディオ用語で言うとS/N比(シグナル/ノイズ比)が上がります。もうひとつが、ゆっくり、はっきり、区切りながら話してもらうこと。これで、変化する音を明瞭にとらえることが可能になります。この2つの工夫で言葉の聞き取りは格段に上がるのです。ただし、この2つは会話の相手の協力が不可欠です。とくにスピードについては、耳元で大きく話せば通じると誤解している人が多いので、「2倍ゆっくり話してください」と明確に伝えた方が良いと思います。もしかしたら、模範演技として、「2倍、ゆっくり、話してください」と区切りながら伝えるのが効果的かもしれません。

2021年10月13日 苫小牧民報 掲載

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