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Medical column とまこまい医報

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昔は少なかった子どものストレス関連障害(その3)

昔は少なかった子どものストレス関連障害(その3)

高橋 義男

(苫小牧市医師会・とまこまい脳神経外科)

―孤立を防ぐ地域内対応と連携―

 

 ストレス関連障害はストレスなどに関連して頭痛、しびれ、まひなどの症状が出るもので、臨床検査では明らかな疾患がないことを特徴とする。その発生背景には一生懸命過ぎる指導や過剰な期待、叱責ばかりで愛情のない環境、何でも受けてしまういい子になってしまう受動的習慣、物事を適当に処理できない真面目過ぎる性格、周囲との関係が乏しく、孤立していてストレスを自ら解決できない体質などがある。

 単なる投薬では解決できず、状態を分析しての周囲の共感や配慮、家庭のみならず学校内や地域など周囲の人々の分かろうとする心と支援、そして、その中で本人がどう認識してどう行動するかが必要となる(6月12日紙面に掲載)。基本に流れるものは、「優しさ」という人間同士の信頼の回復である。簡単に見えて今の時代では信頼の再構築は難しく、また早期にうまく解決しなければ将来に大きな影響を与える。放置すれば、緘黙(かんもく)症、うつ病、自殺企図を繰り返す、引きこもりなどに移行する。

 以上は言うはやすいが解決は簡単ではない。良くなったり悪くなったりと長く続くことを認識しながら、大人になった時のイメージを描き、諦めないでこつこつと対応に取り組む。今回は病院だけでなく家庭内、学校内、地域内対応と地域内連携の必要性と実際について述べる。

7.孤立を防ぐ地域内対応、学校内対応、地域内リハビリテーション

 ストレス関連障害は原因が分からない、元気に見えるなどから詐病(さびょう)のように見られる。実際本人は苦しんでいるという認識があり、本人の体は実感している。根底に自己肯定感の喪失が大きい。

 このような中で第一に行うことは周囲状況と本人の状態の認知、理解と原因の推測である。現実的には相談相手となる医療者、養護教諭、教師などが本人の訴えを傾聴、状況をよく理解し、周囲の家族、友人、同級生などに分かりやすく、なぜ今の身体症状があるかなどを説明し、当事者に合った対応をつくり上げる。

 この共通理解は時にもろ刃のやいばである。親を含め本人を支えているようで不注意に情報を漏らす、ちゃんとしなさいと攻撃的に言うなどはまれではなく、本人との信頼の回復を妨げる。また、一生懸命過ぎる親や指導者がストレスの原因になっていることも多く、第三者となり得る養護教諭などがその辺の状況を判断し、支援者、共感者を選び、解決の道を探る。

 情報共有者は必要最小限とし、あまり広げない。人の心配をするふりをして刺さり込んでくる人、知りたがりの人、おせっかいの人の介入は避ける。いわゆる有識者に任せるなども避け、地域問題として取り組む。この問題は医学ではなく生活の問題である。全ての人々の理解が得られなくても、誰かが理解してくれれば当事者が前向きに生きていけるということを本人や周囲が経過の中で実感することである。

これらの行程と並行して行うのがストレス要因の再検索と対応と本人の強化である。今の時代のような複雑な社会ではストレスの原因は単一とは限らずしばしば変わったり、増えたりする。

 きっかけは単一であったとしても経過の中で学校内の友人関係や教師との関係や課外活動での責務、本人の性格と能力など多くの要因に影響される。これらの変化に対しても本人に学校生活や課外活動をどう過ごせばよいか、家庭と地域をどう連結するかなどを自身の努力と共に、授業、放課後、日常生活、友人関係などを連動させる。諦めて本人や家族に考えるようにと放り投げることは決してやってはいけない。本人を含め、今まで経験したことがないことなのだから、みんなで考えることが重要である。

 その後コーディネーターは本人の回復度の評価と対応をしながら、周囲にも対応し、小集団内の信頼関係の再構築を同時並行的に行う。難しいのは本人の強化である。注意点は、改善傾向にあったとしても、簡単には完全回復はしないことの認識で、一見良さそうだからといろいろさせるとまた悪化することである。時間をかけた慎重な対応が大事である。また、対応は一律ではなく難しそうに見えても身近に理解者、応援者ができると急速に改善することもあるので、個人個人に適した方法を取る。最終的にはストレスがあっても自身で分析し、逃避にしろ自覚して対応できるようになることである。(認知行動療法)

軽そうに見える場合は本人の状況判断が乏しく、調子が良くなったと思って無警戒状態にあるところにストレスが加わり、再び悪化、それを繰り返し長期回復不能となる場合が多い。良くなってもしばらくはその状態で待ち、予知と対応の自覚ができるようになっているかを確認し日常生活に戻す。

次の機会には地域の中での第二弾、いかに不登校、引きこもりを避けるか?について述べる。

2019年08月28日 苫小牧民報 掲載

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