No.83
◆手術前の経口補水療法
苫小牧市医師会
大島 秀紀

水は体を構成する要素の50~70%を占めています。体内でつくられる水分よりも排泄される水分の方が多いので、水分を補給することは生きていくためには必須の条件といえます。しかしながら、病気による発熱、下痢や嘔吐、水分の補給不足などにより水分と電解質(ナトリウムなど)が不足した状態を脱水症といいます。小児や高齢者では、時に重症化したり死に至ることもあります。そこで脱水症に対する簡便で安価な治療法として脚光を浴びているのが経口補水療法です。

経口補水療法とは、脱水症状の時に口から適切な水分を補給する方法で、1968年にバングラディシュで小児におけるコレラ流行に対して施行され、点滴治療に匹敵する治療として評価されました。1971年のコレラ大流行時には、小児患者の死亡率を30%から3.6%までに改善させたといった報告もあります。以後、世界中で注目されはじめ、点滴治療に変わり経口的に脱水症を改善できる治療法として、開発途上国から普及し、現在では、小児科を中心に一般診療でも推奨されています。経口補水療法に使われる経口補水液は、正常な腸はもちろん、下痢を起こしている胃腸炎でも腸から吸収しやすいように電解質(ナトリウムなど)と糖分(ブドウ糖)が調整された飲料水です。特別なお薬や栄養剤ではありませんので、一般の薬局などでも購入は可能です。

成人では、食べ物や飲み物から摂る水分と、胃や腸で分泌される消化液を合わせると、1日に約7000mlもの水分が分泌と吸収を繰り返しながら胃腸の中で出入りしています。口からものを食べたり飲んだりすることはこの胃腸の働きをより促進し、最近では病気に打ち勝つための免疫機能を高めることも知られてきました。このことから、近年、手術を受けられる患者さんが、体の状態、免疫力を維持するため、手術の前後に飲食を制限する絶食期間を短くしてゆくことがすすめられていました。

手術を受ける患者さんは、手術前に飲食を制限されてしまうことで、常に脱水症状になってしまう危険があります。飲食の制限に対しては点滴による水分補給を行うことが一般的ですが、最近では、手術の直前まで点滴に頼らず経口補水療法を行い、脱水症状を防ぎ、同時に胃腸の働きを落とさないで行う、術前経口補水療法も試みられるようになってきました。手術前の経口補水療法によって、手術後の血糖値の安定、むくみの軽減の他、より早期の回復が考えられています。すべての手術、患者さんに行える方法ではありませんが、患者さんへの負担も少なく、今後、一般的になってゆくことが期待されています。


大島 秀紀 (苫小牧市医師会・同樹会苫小牧病院)

2012年4月24日 苫小牧民報 掲載

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