逆流性食道炎と食道裂孔ヘルニア
宮本 茂樹
(苫小牧市医師会・苫小牧消化器外科)
宮本 茂樹
(苫小牧市医師会・苫小牧消化器外科)
逆流性食道炎とは,胃酸や食物が胃から食道へ逆流することによって胸やけを主としてさまざまな症状を呈する疾患の総称です。これまで欧米に多いとされていましたが,日本においても近年増加傾向にあり着目されるようになりました。その理由として高齢者の人口が増加したことや食事を含めた生活習慣の欧米化があげられます。さらに,内視鏡の技術や診断の進歩によりこれまで原因不明とされていた咽頭痛や胸痛が逆流性食道炎によるものであることが明らかになってきました。
比較的若い年齢のかたにも多くみられるようになりました。日常生活の注意点として腹圧が過度にかからぬように体重増加に気をつけること,便秘などしないなど生活習慣の改善を促しつつ内科的治療としてH2 ブロッカーやPPI(プロトンポンプ阻害剤)などの制酸剤を投与し症状を緩和することが主流となっています。しかし,内服薬だけでは症状の改善を得られないことが多くみられるのも実情です。通常,食道と胃の移行部には横隔膜脚(きゃく)という筋肉があり,食道はその筋肉で襟巻きのように巻きつけられています。
食道が貫通している部分を食道裂孔(しょくどうれっこう)といいます。その横隔膜脚がゆるみ食道裂孔が大きくなってしまい胃の上部が横隔膜から胸部の方に入り込んだ状態を“食道裂孔ヘルニア”といいます。多くは加齢による脊柱の変形や長時間の前屈(前かがみ)姿勢などにより食道裂孔ヘルニアの状態となり胃食道の逆流防止機能がきかなくなってしまうため逆流性食道炎を引きおこします。さらに,胸部に入り込んだ胃の上部の部分に食物が停滞するため‘のどの詰まり感’や‘心窩部痛(みぞおちの痛み)’の症状がでることがあり,その恐怖心から食事をとることができないかたも多くみられます。
その場合には脱出した胃を腹腔内に戻し,ゆるんだ食道裂孔を縫い縮める手術が必要になります。最近では胸部や腹部を大きく切開せずに小さな創でおこなう腹腔鏡での手術が可能であり低侵襲で安全性の高い術式となっていることから高齢者においても積極的に手術適応とされています。高齢者で食事がすすまないというかたは一度専門病院に相談することをおすすめします。
2012年11月27日 苫小牧民報 掲載