眼圧測定用コンタクトレンズ
喜早 光紀
(苫小牧市医師会・喜早眼科)
喜早 光紀
(苫小牧市医師会・喜早眼科)
眼圧とは、眼球を球形に保つための眼球内の圧力です。最近の大規模な調査(多治見スタディ)によると、日本人の平均眼圧は14.5mmHgであり、標準偏差2.5mmHgを考えると、正常の眼圧は10~20mmHgであるということが分かりました。これを超えた状態が持続すると視神経が障害され視野狭窄が起こり約30年放置すると進行し失明に至ります。これが緑内障であり我が国の失明原因の第1位です。40歳以上の有病率は5%(20人に1人)であると言われています。眼圧は、一日の間でも時刻により変動するうえに、どの時刻に眼圧が高くなるかというパターンには個人差が大きいことが知られています。
前述の眼圧の正常値は健康人を対象とした調査に基づいて統計的に求められた値であって、この範囲にあるからといって緑内障にならないとは言い切れません。わが国では、眼圧が正常範囲であるにもかかわらず緑内障になっている「正常眼圧緑内障」の患者さんが過半数を占めていることが判明しております。緑内障を診断したり治療経過の善し悪しを判断するには、定期的に多くの検査を生涯にわたって続けていく必要があります。眼圧検査、隅角検査、眼底検査、視野検査、等が主な検査になりますが、それぞれに様々な検査機器や検査法があります。
緑内障は眼圧を下げることで、進行を防止したり遅らせることが出来る可能性のある病気です。ただ障害されてしまった視神経は、回復しません。また、どんなに手を尽くしても進行を止められない緑内障もあります。しかし早期に、視神経障害の軽いうちに手を打つことができれば失明に至る危険性はぐっと少なくなります。緑内障の治療方法としては、薬物療法、レーザー治療、手術がありますが、緑内障のタイプやそれぞれの人に適した治療方法が必要となります。多くの緑内障では、薬物療法が治療の基本となります。特に点眼薬は現在10種類以上あり一種類だけで効果が少ないと判断された場合は、複数の点眼薬を使います。先に述べたように、眼圧には日内変動が有り、この変動パターンは一人一人異なります。もし24時間、眼圧をモニタリング出来ればより効率よく点眼薬を眼に作用させ眼圧を下げることが出来るわけです。
しかし現在のところこの要求を満たしてくれるような機器はなく、医者が24時間、患者さんに付きっきりで眼圧を測定しなければなりません。両者にとって大きな負担となりますので、あまり現実的な検査法ではありません。世界で約1億人の人がコンタクトレンズを利用しております。近年ヨーロッパでコンタクトレンズを使って血糖値、コレステロール値をモニタリングする方法が研究開発されております。一方眼科領域において、緑内障患者の眼圧を24時間監視するコンタクトレンズが欧州の一部の医療機関で使用開始されており、米国、カナダでもいずれ認可が下りるようです。このコンタクトレンズには、眼圧を検出するための薄い圧力センサーと信号処理LSIや、送受信用デバイスが集積されており、電磁波を通して駆動するため電源は搭載されておりません。首の周りに装着した小型受信モジュールで信号を受けるとのことです。近い将来、日本でも認可が下り、緑内障治療に、おおいに貢献するものと思われます。
2012年06月26日 苫小牧民報 掲載