とまこまい医報
「医療安全」について
「医療安全」について
岩井 和浩
(苫小牧市医師会・王子総合病院)
「安全」は食品をはじめ様々な分野で重要なキーワードとなっています。医療においては1999年の大学病院での患者取り違え事故を契機に「医療安全」が注目を浴びることとなりました。また、同年には米国医学研究所が医療上のエラーに関する報告書「人は誰でも間違える-より安全な医療システムを目指して」を発表し、入院患者での医療行為による傷害(有害事象)発生率や死亡率の高さが反響を呼びました。 医療はもともと検査・手術など身体への侵襲を伴うものであり、その安全の確保には特に注意を要します。医療過程で生じる有害事象には本来回避可能なものと不可避なものがありますが、有害事象を可能な限り減らすことは医療従事者の責務です。医療は資格を有する専門職によって行われていますが、人の手により行われるものである以上リスクをゼロとすることは困難であり、組織的な対応が求められます。そこで、医療機関では規模に応じて安全確保の仕組みとして医療安全管理部門をおき対応に努めています。2007年の第5次医療法改正では医療安全対策の強化が求められ、院内感染防止対策の強化や医薬品、医療機器安全管理体制の整備が法律により規定されました。感染対策では、院内感染に対する対策が義務付けられ指針の作成や報告制度が整備されています。最近では、多剤耐性の細菌感染は医療従事者だけでなく社会全体の注目を集めており、とくに注意を要する問題の一つとなっています。 1件の重大事故の背景に29件の軽傷事故と300件のニアミス体験があるというハインリッヒの法則があります。重大な事故を防ぐためには小さなリスクを把握し対策を継続的に講じることが重要となります。医療機関では、そのようなニアミス体験を報告し、集計・分析を行って、重大事故を防ぐ努力を行うなど、安全確保に日々努力を重ねています。一方で、医療機関・従事者のみの努力で事故を根絶することはなかなか困難です。医療機関は情報の開示をすすめ、地域・患者に開かれた組織となる取り組みが必要ですし、医療の主役である患者さんも事故が無くなるよう一緒に協力していくことが重要なことと考えられます。「患者参加の医療安全」として、誤認を防ぐために自ら姓名を名乗ることや、質問があったら声に出して確認するなど、医療従事者と協働して医療安全に参加する意識を持っていただくことが事故防止に非常に有用であると考えています。
2010年12月14日 苫小牧民報 掲載