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Medical column とまこまい医報

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肺炎球菌ワクチンと集団免疫

肺炎球菌ワクチンと集団免疫

高柳 直己

(苫小牧市医師会・たかやなぎ小児科)

日本のワクチン事情は北朝鮮なみの後進国で、この20年間新しいワクチンは、まったく導入されませんでしたが、ここ1,2年でヒブ菌、小児用肺炎球菌ワクチン(7価蛋白結合型不活化ワクチン、プレベナー)、子宮頸がんワクチンが認可され、状況が改善しつつあります。しかし、希望者だけの任意接種で自己負担も高額です。市民の認識もまだまだ不十分です。医師会が中心となってこうしたワクチンで防げる病気(VPD)について、公費助成の拡大、市民への啓発活動を行っています。 医療費は限られているので有効に使わねばなりません。一番効率的な医療費の使い方は予防接種(ワクチン)です。以前から高齢者肺炎予防の肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)に公費助成を行っている自治体があります。しかし、この「ニューモバックス」と一見似たような新しいワクチン「プレベナー」は実は生体の中での効果がかなり違います。 総合免疫力は生後2歳までは大変未熟です。細菌性髄膜炎を起こすヒブと肺炎球菌に対しての抗体産生能力は大変低いのです。しかし、しかしこうした細菌の膜に特殊タンパクを結合させたタンパク結合型ワクチンがたいへんな努力の上に開発されました。2歳未満でも接種すると特殊な抗体が十分に賛成することが可能で両菌による重症感染症を予防できます。これに対して高齢者肺炎予防の肺炎球菌ワクチン(ニューモバックス)は細菌の膜の多糖体抗原を使用しているため2歳以下には無効です。超高齢者の免疫能も低いので「ニューモバックス」はあまり有効ではありません。多くの子供が「プレベナー」を受けると、高齢者の肺炎なども減少します。「プレベナー」接種によって子供に大量の血中抗体ができると、のど等にその菌が付着しなくなります。すると他のこどもなどにも悪い菌をうつさなくなり、世の中全体のその菌の感染症が減ります。このことを「本来の集団免疫、あるいは間接効果」とよびます。米国のデータではプレベナーを子供全員に投与しますと、高齢者の肺炎予防に大変有効であることが分かっています。この事実からWHO(世界保健機構)は、予算に限りがあるのならば高齢者を守るために「ニューモバックス」を接種するよりも、子供全員に「プレベナー」を接種するほうが良いと述べています。

子供をワクチンで守ることにより、高齢者を守る。集団免疫、ワクチンの間接効果は子供を大切にする社会は高齢者を大切にする社会そのものなのです。

2010年10月12日 苫小牧民報 掲載

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