経口糖尿病薬治療の進歩について
皆上 宏俊
(苫小牧市医師会・みなかみ医院)
皆上 宏俊
(苫小牧市医師会・みなかみ医院)
糖尿病患者数は年々増加傾向にあり、日本国内には約1000万人の患者がおり、予備軍を含めると2000万人に達するとされています。大半は2型糖尿病(治療にインスリンを要しない)の方です。現在も経口糖尿病薬を服用している方も多いと思いますが、その主な働きと昨年から臨床の場で使われているインクレチン薬を紹介したいと思います。
① スルフォニル尿素薬:膵臓に働きインスリン分泌を増やし、確実に血糖を下げます。新しいタイプ は、筋肉・脂肪での糖の取り込みを盛んにする働きもあります。重大な副作用は低血糖です。
② 速攻型インスリン分泌促進剤:①の速攻型です。毎食前に服用の必要がありますが、食事時間が不規則な方には有用です。
③ α-グルコシターゼ阻害薬:食後の糖の吸収を穏やかにし、食後血糖の上昇を抑えます。腹満を感じる方もいます。①②と併用の場合、低血糖時ブドウ糖を飲まないと回復が遅れます。
④ ビグアナイド薬:肝臓からの糖新生の抑制が主作用ですが、肝・腎障害のある方では乳酸アシドーシスと呼ばれる意識障害を起こすことがあります。
⑤ チアゾリジン薬:インスリン抵抗性を改善し血糖を下げるので単独では低血糖の危険は少なく、心血管病の発症を抑制する作用も想定されています。
最近のトピックスはインクレチン治療(DPP-4阻害薬)です。新しい機序で働く薬で、既に3剤が販売されています。経口摂取した食物の刺激で腸上皮から分泌されるインクレチン(消化管ホルモンの一種で代表はGLP-I)は、①膵臓からのインスリン分泌を促進・血糖の上昇を抑える、②血糖値に応じ働くため低血糖の心配が少ない、③血糖上昇ホルモン(グルカゴン)の分泌を抑え、④腸管運動・摂食を抑制し肥満を防止する、⑤更に膵臓のインスリン分泌細胞を増加させる(!)等々、の特徴があります。 DPP-4阻害薬は、GLP-Iの分解を抑制する薬ですので、その働きがより強く現れ、血糖を調整します。欧米の成績からみても軽症から中等症の2型糖尿病の方には有力な薬と考えられますが、日本でスルフォニル尿素薬との併用で重篤な低血糖が報告されており、多剤との併用時・長期使用時の有効性・安全性の評価は定まっておらず、慎重な使用が必要です。 経口糖尿病薬は確実に進歩していますので、多くの糖尿病の方に役立てる日も近いと思います。
2010年08月17日 苫小牧民報 掲載