とまこまい医報
高齢者医療の特徴
高齢者医療の特徴
常松 和則
(苫小牧市医師会・北海道立苫小牧病院)
日本は、65歳以上の高齢者が総人口の23%近くを占める超高齢化社会となってきております。 現在、高齢者は65歳~74歳の前期高齢者と75歳以上の後期高齢者に大きく分けられていますが、我々医療者からみますと、診療していて前期高齢者を高齢者と考えて治療することはありません。では医学的にみて高齢者は何歳以上とすべきかとすると、日本老年医学会等での発表からすると75歳以上と考えたほうがよいようです。研究の一つの結果ですが、1992年の日常生活動作(ADL)と、2000年のADLを比較しますと、1992年の65歳以上全体のADLと2000年75歳以上のADLのあり方とは、ほぼ一致します。つまり10年ほどで高齢者のADLは約10歳若返っていることになります。 肺炎は全死亡原因の第4位ですが、高齢者に限ってみると第1位(要介護高齢者の直接死因としては30%)となります。急速に高齢化社会となってきている現在においては、高齢者肺炎の予防と治療がもっとも重要な課題となっています。一般的に肺炎は、市中肺炎と院内肺炎に分けられ、診断・治療方針が区別されていますが、高齢者肺炎に関してはこの分類の意義はあまりありません。 このことは高齢者の肺炎の多くは誤嚥性肺炎で、調査によると全肺炎の70%が誤嚥性肺炎であることが解ってきたためです。高齢者では加齢と共に歯の欠損、舌の運動機能、咀喟機能の低下、嚥下時の咽頭拳上の不十分、咳反射の低下等による誤嚥しやすくなります。では誤嚥性肺炎とはどのような肺炎かといいますと、嚥下障害のために咽頭、副鼻腔、歯周、口腔に常在する病原体が、唾液などの分泌物とともに気道に入り込み(誤嚥)起きる肺炎をいいます。誤嚥には、'むせ'や咳をともない周囲のだれもが分かる顕性誤嚥と、症状のない不顕性誤嚥があります。顕性誤嚥の場合は、周囲も肺炎に注意し早めの治療が受けられますが、誤嚥性肺炎の多くは、特に夜間に少量の誤嚥を繰り返している不顕性誤嚥による肺炎で、症状が軽微のため気付かれず、分かったときには重症化していることが多く見られます。今後、高齢化社会が進むにつれて誤嚥性肺炎が増加すると考えられます、このため肺炎予防が益々重要になります。予防法の1つは誤嚥性肺炎の病原菌の約30%が肺炎球菌のため、肺炎球菌のワクチンの接種ですが、より重要な予防法は、口腔ケアーと歯科治療で口腔内をきれいにして(誤嚥内容物の細菌を減らす)肺炎を減少させることです。不顕性誤嚥は高齢者には普遍的現象であることを心にとどめておいてください。
2010年06月29日 苫小牧民報 掲載