ヘルニア(脱腸)の「なぜ?」と「治療」
櫛田 隆久
(苫小牧市医師会・苫小牧日翔病院)
櫛田 隆久
(苫小牧市医師会・苫小牧日翔病院)
ヘルニア(脱腸)は子供の病気と考えられがちですが、実際に手術を受けられる患者さんの60%以上を50歳から70歳代が占めていています。むしろ成人に多く、手術以外に治療方法が無い病気です。
ではヘルニアはどうして起きるのでしょうか?
たとえば、底に大きな穴が開いたバケツと、伸び縮みする丈夫な風船を考えます。バケツの中に風船を入れて風船にどんどん水を入れていきます。有る程度以上の水が入ると(大きな力が加わると)風船がバケツの底の穴から飛び出してきます。人の体では、バケツは骨盤と周辺の筋肉、風船は小腸などが入った腹膜です。バケツの穴(筋肉が弱いところ)は、「ビートたけしがコマネチするあのライン」に集まっています。コマネチのラインにできるとそけい(鼠径)ヘルニア、もう少し下のふとももにできるとだいたい(大腿)ヘルニアと呼ばれます。
どんな症状がでるのでしょうか?
初期段階では、指で押さえると引っ込むぐらいの柔らかい膨らみができます。特に自覚症状は有りません。この膨らみの中に小腸などが入りこむと「脱腸」と呼ばれる状態になり、「不快感」や「痛み」を感じるようになります。さらに進行すると、柔らかかった膨らみが急に硬くなる、指で押さえても引っ込まなくなる、強い腹痛や嘔吐を伴うようになります。この状態は腸閉塞、嵌頓(かんとん)と診断され大至急治療が必要です。
どのような治療があるでしょうか?
小児では飛び出した膨らみの根元を縛る手術をします。成人では従来法と人工補強材を使う方法(メッシュプラグ法、クーゲルパッチ法など)があります。従来法ではヘルニアの膨らみ(袋)を根元で縛った後周辺の筋肉や筋膜を縫い合わせて補強とします。この方法では縫い合わせた筋肉、筋膜が痛みや突っ張りの原因とり、加齢により筋膜自体がさらに弱くなりヘルニアが再発することがあります。そのため筋肉・筋膜による補強ではなく人工補強材(ポリプロピレン製メッシュ)を使う方法が考えられました。メッシュプラグ法は傘状のプラグと膜状のメッシュを用いバケツの底側から補強する方法です。クーゲルパッチ法は特殊構造の二重膜を風船とバケツの間に入れて補強する方法です。どちらを選択するかはヘルニアの状態、症状により変わります。ヘルニアは手術治療が必要な病気です。外科の先生に相談してください。
2010年01月26日 苫小牧民報 掲載