とまこまい医報
政治と医療の関わりについて
政治と医療の関わりについて
熊谷 文昭
(苫小牧市医師会・苫小牧日翔病院)
現在、政治の世界は激動の時代に入っています。戦後の自民党政権が今月末に実施される衆議院選挙によってどう変わっていくのか、政権が野党第一党の民主党に取って代わるのか、政治アナリストでさえ今後の見通しについてはまったく予断を許さない状況が続いています。
医療についても政治の世界とは切り離して考えることは出来ません。最近ではニュースソースにもあまり登場しなくなって参りましたが、「後期高齢者医療制度」(現在は「長寿医療制度」)は記憶に新しいところであると思います。これは、75歳以上の方を対象に従来の健康保険制度から切り離し、新しく創設した「後期高齢者医療広域連合」という健康保険に代わる団体に自動加入させることにより、従来の保険診療と切り分けて医療の提供を行うという仕組みです。その結果、良い面としては保険料が不公平なく全ての加入者(75歳以上の方)が平等に負担し、現役世代が加入している健康保険からも「支援金」という名目で「後期高齢者医療広域連合」を下支えして国民全体で高齢者医療を支えていこうというところですが、反面、今までは「被扶養者」となっていたために保険料の負担が無かった方が負担を強いられたり、75歳以上でありながら所得が一定額を超えてしまった方は今まで以上に医療費の負担が大きくなってしまったり、あるいは、「支援金」の負担により健康保険組合が破綻してしまったり、悪い面を強調する声もあちらこちらから聞こえております。今後の政治によりこの制度がどのように変わっていくのか、医療を提供する我々にとっても重大な関心事のひとつです。
また、「混合診療の自由化」という制度も一時世間を賑わせていた言葉です。混合診療とは健康保険範囲内の診療は健康保険で支払い、範囲に外れた診療は患者さんが自己負担するという仕組みです。一見、良さそうな仕組みにも取れますが、既に同制度が当たり前になっている欧米諸国等では、”お金がない人は十分な医療を受けることが出来ない”のも常識となっております。我々医療を提供する者としては、「いつでも、どこでも、誰でも平等に医療を受けられる社会」を崩壊させるわけには行かないと考えており、医師会としてテレビや新聞等を通じて様々な医療政策についての訴えを展開して参りました。
来る総選挙の投票には、経済の回復はもちろんのことですが「医療行政」にも目を向けていただき、日本の将来像を意識した投票をお考えいただければと思います。
2009年08月11日 苫小牧民報 掲載