サイレントキラー:大動脈疾患
阿部 慎司
(・王子総合病院)
阿部 慎司
(・王子総合病院)
「突然死」——その言葉を聞くと、多くの人が心筋梗塞や脳卒中を思い浮かべるかもしれません。しかし、もうひとつ恐ろしい病気があることをご存じでしょうか?それが「大動脈疾患」です。
▽自覚症状のない進行が危険
大動脈疾患には、大動脈瘤(りゅう)と急性大動脈解離という二つの代表的な病気があります。大動脈瘤は、こぶのように大動脈が膨らんでしまう状態、一方、大動脈解離は正常では3層構造の血管壁のうち2層目と3層目の間に亀裂が入る状態のことを言います。
大動脈瘤は自覚症状がほとんどないまま瘤径拡大が進み、また大動脈解離はある日突然発症し、いずれの疾患も大動脈破裂による突然死の要因となることがあります。そのため、大動脈疾患は「サイレントキラー」と呼ばれるのです。
▽予防の鍵は高血圧管理と定期検診
最大のリスク要因は高血圧です。高い血圧が持続すると血管に負担がかかります。したがって、塩分を控えた食事や適度な運動を習慣化し、血圧を管理することが重要です。また、喫煙や過度な飲酒も控えるべきです。さらに、50歳以上の方や家族に大動脈疾患の既往がある方は、定期的な健康診断や画像検査(CTやエコー)を受けることで、早期発見が可能になります。
▽治療法は2通り
従来、行われている治療法として、「開胸手術」や「開腹手術」があります。これは病変部分を人工血管に置き換える手術です。1950年代、アメリカ軍の軍医によりパラシュートの素材から人工血管が作成され、これが臨床応用されるようになってからこの術式は大きく普及し、今日まで長年の治療実績が蓄積されてきました。
一方、近年注目されているのがステントグラフト内挿術です。これは、カテーテル(細い管)を使って血管の中からステントグラフト(特殊な人工血管)を挿入し、大動脈を内側から補強する治療法です。大きく皮膚を切開する必要がなく、体への手術の負担が少ないため、高齢者や持病を持つ方でも受けやすい治療法です。ただし解剖学的条件によっては適応にならない場合もあります。
▽まとめ
大動脈疾患は自覚症状がなく進行し、突然命を奪う可能性のある病気です。しかし、生活習慣の改善や定期検診によって予防・早期発見が可能です。私たちの命を支える大動脈。体表からは見えない部分だからこそ、しっかりと血管を守る意識を持つことが何より大切です。
2025年04月30日 苫小牧民報 掲載