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全人的苦痛とスピリチュアルペイン 自分らしく生きられないことによる苦痛

全人的苦痛とスピリチュアルペイン 自分らしく生きられないことによる苦痛

伊賀 勝康

(苫小牧市医師会・勤医協苫小牧病院)

苫小牧市は現在人口17万人を切り、全国と同様に高齢化率30%を超え、25年前の2倍の2000人以上の方が亡くなる多死時代を迎えています。がんになる方も増え、多くの方が治療を受けつつ、抗がん剤の副作用やがんの痛みと闘って日々を暮らしています。その他の病いに苦しみながら、過ごしている人々も多くいます。

そうした病いや老いによって生じる苦痛には四つの側面があります。身体的苦痛(身体の痛みなど)、精神的苦痛(抑うつや不眠などの心の苦しさなど)、社会的苦痛(金銭面や人間関係など)、そして霊的苦痛(スピリチュアルペイン)が挙げられています。これらは相互に影響し合い苦痛を複雑にしていきます。これらを全人的苦痛(トータルペイン)と言います。

四つの苦痛の中で他の人から分かりにくいのがスピリチュアルペインです。簡単に言えば「自分らしく生きられないことによる苦痛」です。人が自分らしく生きるには、次の3本の柱が必要です。①関係性「人とのつながりがあるから生きていける」②時間性「積み上げた時間がこれからも続くから生きていける」③自律性「自分で選んだ人生の選択だから生きていける」。人はこの3本の柱のテーブルの上に揺れながらも立ち続けているのです。

しかし、病いや老いによって自分を支えるこれらの柱が崩れた時、人は自分らしく過ごすことができなくなります。死を意識し将来が揺らぐ(時間性の障害)、自分のしたいことができない(自律性の障害)、家族、友人、社会とのつながりがうまくいかない(関係性の障害)、これらの人生の意味を問われる状態がスピリチュアルペインです。

この苦痛を癒やすには特効薬はありません。自身の回復力(レジリエンス)を高めることが大切です。会話を通して共に物語を紡いていく「ナラティブアプローチ」がその手助けになります。他の人との関わりを強化したり、自分で決めていく支援をして自律性を尊重したり、昔語りの中から未来につながるものを共に見つけたりしながら、苦しむ人が人生の意味を再構築するお手伝いをします。そうした苦痛を感じた時はお医者さんやスタッフ、多くの人々と、身体の痛みだけでなく全人的苦痛を視野に入れつつ共に考えていくことが大切です。

まずはその苦しさをお話しください。そこから一歩が始まります。

2024年09月24日 苫小牧民報 掲載

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