とまこまい医報
抗不安薬の功罪
抗不安薬の功罪
久住 一郎
(苫小牧市医師会・苫小牧緑ヶ丘病院)
不安が強い時に服用する抗不安薬(ベンゾジアゼピン受容体作動薬で、安定剤とも呼ばれ
る)は、効果発現が速く、有効性が非常に高いため、様々な臨床場面で多用される。しかし、
綺麗なバラには棘がある・・・。一方で、耐性(だんだん効かなくなる)、認知機能低下(ぼ
ーっとして、集中力や注意力が下がる)、筋弛緩(力が抜けて転倒しやすくなる)、依存(服
薬に頼って、頻度や用量が増えていく)、離脱(止めると、不安が非常に強まる)など少な
からず副作用があることに注意しなければならない。依存性が特に強い抗不安薬を飲んで
いる方を診察すると、「他の薬は止めても構わないが、その薬だけは絶対に減らさないでほ
しい」と釘を刺されることがしばしばある。これらの薬は、内科や外科などの一般診療科で
処方される機会もけっして少なくない。しかし、いったん開始されると、専門の科でも、減
量・中止したり、他の薬に変更するのに非常に難儀する。睡眠導入剤(「眠剤」と呼ばれる)
について上記副作用があることは比較的よく知られているが、実は抗不安薬も薬理学的に
は眠剤と全く同じ作用機序であるため、同様の問題があることも知っておく必要がある。
最近の不安障害の治療は、一昔前の抗不安薬主体から、ある種の抗うつ薬(選択的セロト
ニン再取り込み阻害薬で、SSRI と呼ばれる)によって、不安の発現を予防することが標準
的になってきている。その補助的治療として抗不安薬が頓服で使用されることはあっても、
けっして抗不安薬だけで治療するわけではない点が上記の副作用を回避するために重要で
ある。「眠剤」についても、従来から使用されてきたベンゾジアゼピン受容体作動薬から、
オレキシン受容体拮抗薬など新しいタイプの薬剤が主流になりつつあるが、上記副作用が
少なく、安全性が高くて、自然に近い睡眠が得られる。不安や不眠に悩むようなことがある
場合には、このような基礎知識を持った上で、かかりつけ医に相談し、場合によっては専門
の科に紹介してもらうことをお勧めしたい。
2024年12月10日 苫小牧民報 掲載