Hib(ヒブ)ワクチン
高柳 直己
(苫小牧市医師会・たかやなぎ小児科)
高柳 直己
(苫小牧市医師会・たかやなぎ小児科)
Hib(ヒブ)感染症。一般の方にはあまり聞きなれない病気かもしれません。Hib菌は健康な子どもが短期間で死亡したり、重症の後遺症を引き起こす恐ろしい感染症のひとつです。Hib菌による乳幼児の細菌性髄膜炎は、初期診断や治療が難しいため古くからワクチンの必要性が議論され1980年代後半には欧米を中心にHibワクチンが導入されました。米国では、このワクチンによる定期予防接種の導入により、Hib罹患率が100分の1にまで減少しています。また関節炎、骨髄炎、急性喉頭蓋炎、薬剤耐性Hib感染症なども予防効果があることが知られています。さらに1998年、世界保健機関(WHO)がHibワクチンの乳児への定期接種を推奨する声明を出したことから、現在では世界100カ国以上で使用されるようになり、世界的に見ればHib感染症はまれな疾患となっています。
いっぽう日本では毎年、5歳未満の人口10万人当たり少なくとも8.6~8.9人がHib感染による細菌性髄膜炎に罹患していると推定されています。Hibによる細菌性髄膜炎は予後が悪く、罹患児の5%が死亡し、25%に聴覚障害やてんかんなどの後遺症が生じています。さらに最近は、Hibの薬剤耐性化が急速に進み、Hib感染症がさらに難治化する傾向にあります。苫小牧小児科医会の調査では市内で細菌性髄膜炎が最近10年間で30名あまり発生していました。不幸にも亡くなられたり、後遺症を残し20年以上も寝たきりの患者さんもいました。
日本でもHibワクチンはようやく昨年12月に製造承認を取得しましたが、当面は「任意接種」となることから、患者の費用負担が大きいこと(通常は4回接種で3万円程度)が課題になっています。高齢者のインフルエンザの予防接種は公費の補助はありますが、子どものためのHibワクチンはすべて自費による任意接種なのです。
現在 、道内ではすでに浜頓別町、幌加内町、栗山町で先進的にHibワクチンの助成を始めました。苫小牧市を始め、札幌市、釧路市、北広島市、千歳市などで医師会、小児科医会からHibワクチン公費負担の請願の動きがあります。
「防げる病気で命を失わないこと」は子どもの権利です。自ら声を出せない子どもに代わって大人達がHibワクチンを安心して接種できる環境を一日も早く作りましょう。
2009年05月12日 苫小牧民報 掲載