動けないのは、がんのせい? −がんロコモの正体
小山内 俊久
(苫小牧市医師会・ケイアンドエイクリニック)
小山内 俊久
(苫小牧市医師会・ケイアンドエイクリニック)
ある日の整形外科外来。診察を終えた患者さんが、帰りがけに言いました。
「先生、無理なことはできないですよね…」
もう一度座ってもらい話を聞くと、孫に会うには車で4時間揺られるとのこと。
庭の手入れ、ゴルフ、キャンプ、ハイキング。実は患者が思う無理なことには、そうでないことも多いのです。その患者は大丈夫と知って、笑顔で帰路に就きました。
患者はとかく我慢しがち、させられがちです。やりたいこと、できることも控えてしまう。がんの治療中ともなれば、なおさらです。余計なことはしない、食べて休んで体力温存。しかしそれは古い考えとなっています。
昨年5月、米国臨床腫瘍学会は、がん患者に運動を勧めるガイドラインを発表しました。がんの治療中であっても、生活を極端に変える必要はありません。むしろ、動いた方が心とからだに良いのです。ただしその前に、骨・関節・筋肉・神経(=運動器)に異常がないかを知ることが大事です。
がんが骨に転移すれば骨折したり、神経の圧迫で手足が動かなくなったりします。抗がん剤治療は骨をもろく、筋力を弱くすることがあります。そして、がん治療を優先するあまり、昔からの膝痛・腰痛が悪化することも。
こうした運動器の問題を、がん患者のロコモ、略して『がんロコモ』と呼びます。ロコモは運動器の障害によって、一人では動きづらくなってしまうことです。
多くのがん患者が望むことの一つに「人の手を借りずに動きたい」があります。それには運動器のプロ、整形外科医が役に立てるかもしれません。
人は動かないと動けなくなります。がん患者が動けなくなるのは、がんのせいだけではないのです。日本整形外科学会は、がんロコモを克服しようと活動を始めています。
がんがあって運動器が気になるとき、整形外科を訪ねてみてはどうでしょう。
「私はがんロコモですか?」
※日本整形外科学会のロコモ予防啓発公式サイトでは、がんロコモについて相談にのれる医師を公表しています。(https://locomo-joa.jp)
2023年08月29日 苫小牧民報 掲載