大腸ポリープ切除の“ニューノーマル”
川村 雄剛
(苫小牧市医師会・同樹会苫小牧病院)
川村 雄剛
(苫小牧市医師会・同樹会苫小牧病院)
はじめまして、苫小牧市医師会の川村雄剛(かわむらゆうご)です。内視鏡治療を専門とし、当院では早期胃がんや早期大腸がんに対するESD(内視鏡的粘膜下層剥離術)や、胆膵疾患に対するERCP(内視鏡的逆行性膵胆管造影検査)などの治療を行っております。
今回は、コールドポリペクトミー(cold polypectomy,以下CPと表記)という手技につきご案内いたします。
本題の前に、2019年に発生した新型コロナウィルス感染症により、これまでの生活スタイルが大きく変わることとなり、現在も不自由な生活を強いられています。医療機関の受診も、不安から避ける傾向が残っているかと思います。こういったコロナ禍で“ニューノーマル”という言葉が広く聞かれるようになりました。在宅ワーク、リモートワークの普及などがその例に挙げられます。
コロナ禍で、病院になるべく行きたくない、その気持ちはよくわかります。少ない通院回数で目的を達成したいと考えるのが当然だと思います。その一助となるのが、大腸ポリープ切除の“ニューノーマル”である、CPという手技になります。
従来は、大腸内視鏡検査を受けて、ポリープがあれば別の日に改めて切除を行なうか、切除した当日1泊2日の入院をすることが多かったのですが、10mm未満の小さなポリープであれば、検査したその場で切除することが可能で、なおかつ入院も不要となるのがCPという手技です。
従来の手技は、スネアと呼ばれる輪っか状の器具に高周波装置をつないで、電気で焼き切るものでした。それに対して、CPはスネアを使用するのは共通していますが、より細いワイヤーのスネアを用いて電気を使わずに粘膜の表層のみを切除します。大きな違いである電気で焼き切るか否か、これは火傷を想像いただくとイメージしやすいかと思います。熱を加えれば、切除面周囲や深部に影響が及び、組織損傷範囲が大きくなります。結果的に、後出血(治療後の出血)や穿孔(腸管壁に穴が開くこと)といった合併症の原因となります。もともと従来法でも後出血1.4%、穿孔0.05%と非常に低い頻度であり、安全性が高い処置ですが、CPはいずれの合併症も従来法の頻度を下回っています。当院では、2021年4月から約200件のCPを行っておりますが、2022年3月現在明らかな合併症の発生は認めておりません。
CPは大腸内視鏡検査とポリープ切除を一度に日帰りで済ませてしまえる、ニューノーマルとして定着しつつあります。
切除にあたってはポリープのサイズや形状、抗血栓薬の有無により必ずしも適応とならないこともあります。また、施設によっては導入していないこともありますので、ご希望の際には担当医師に確認の上、治療を受けていただければと存じます。
2022年05月11日 苫小牧民報 掲載