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ベンゾジアゼピン系向精神薬について

ベンゾジアゼピン系向精神薬について

高木 果

(苫小牧市医師会・ウトナイ病院)

ベンゾジアゼピン系向精神薬(以後、BZ薬と略称=赤線部分は削除)は天然には存在せず、1955年に偶然合成された有機化合物であるが、人間の脳内にはこれに対応する受容体がなぜか存在しており、服用すると催眠作用、不安緩和作用、筋弛緩(しかん)作用、抗けいれん作用といった効果が認められる。特記すべきは過剰摂取に対する薬理学的な安全性の高さであり、それ以前に使用されていたバルビツール酸系向精神薬は50%致死量の低さから死亡事故が絶えなかったため、瞬く間にBZ薬はバルビツール酸にとって代わって広範囲に使用されるようになった。

60年代には欧米では日常的に処方されるようになり、ローリング・ストーンズが楽曲で取り上げるまでになったが、「ひとたび飲み始めるとやめられなくなる」特性があることが徐々に明らかとなった。安全だったはずのBZ薬は実は強力な依存性物質だったのである。

当初は製薬会社も医療業界も政府もこの副作用を認めようとしなかったが、さまざまな紆余(うよ)曲折を経て、90年代以降は「BZ薬は依存物質なので極力処方すべきではない」という合意が欧米社会で形成されていった。一方、わが国ではこうした知見は共有されず、BZ薬の処方はいわば野放し状態が続いた結果、BZ薬の依存症は徐々に増え、2016年には薬物使用障害患者に占める割合が有機溶剤を追い越して第2位(なお第1位は覚せい剤)となるに至り、政府・厚生労働省も本腰を入れて規制に乗り出した。

BZ薬には高齢者の転倒・骨折リスクを上昇させ、また(削除)脱抑制や集中力の低下といった副作用も少なくない。また、BZ薬依存は病院で処方されている量の薬をそのまま飲み続けることによって、いつの間にか依存が形成されてしまうという「常用量依存」が多いことが特徴であり、監督官庁は長期処方や多剤処方などの不適切処方に対して診療報酬削減のペナルティーを課し、これにより医師の処方行動を適正化する対策を採用した。

21年に発表された研究では、少なくとも全国の大学病院では一般科におけるBZ薬処方件数が減少傾向であることが分かった。規制は奏功しており、市中病院や一般診療所を対象とした研究はまだ公表されていないが、おそらく同様の傾向であろう。

精神科領域でもBZ薬全体の処方量は減少していると思われるが、BZ薬の減薬は臨床上の困難を伴うケースも多いため、旧態依然とした大量処方がやむなく継続されている事例も少なくない。われわれ精神科医はBZ薬を削減していくための努力を今後も長期にわたり継続しなければならないであろう。

2022年04月27日 苫小牧民報 掲載

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