昔は少なかった子どものストレス関連障害(その8)
高橋 義男
(苫小牧市医師会・とまこまい脳神経外科)
高橋 義男
(苫小牧市医師会・とまこまい脳神経外科)
ストレス関連障害はストレスに反応して不安、健忘、頭痛、腹痛、手足のまひなどの症状を認めるもので、最近中学生を主とした子どもたちに増えている。現実には皇室関係者、政治家などにも見られるように大人にも増え、もはや特別ではなく社会問題化している。現代社会がストレスだらけなだけでなく、思いやるとかお互いさまという「集団で生きる動物 人間の原点」が失われてきたことが大きい。子どもの頃から周囲の顔色を見て育つなど人間関係を気にして生きるようになってしまったし、一生懸命生きるだけでは駄目で、当たり障りのないよう、うまく生きなければならない時代になってしまった。
今回は学童期からのストレス関連障害、身体表現性障害が、症状や形を変えたりしながら大人になっても続く現実とともに、傲慢(ごうまん)な社会の中で地域の仲間と共に社会適応能力を獲得していくことの重要性を再認識して稿を終える。
11.超慢性期就労期における小児期からのストレス関連障害の実際
「23歳 男性」 中学時代の部活動で人間関係がうまくいかず、尿、便失禁、頭痛、けいれん、意識消失が出現するようになった。大学病院を受診するも、原因不明で経過観察。その後転校するも、過呼吸が頻回に出現、通信課程で高校を卒業した。就職するも原因不明の意識消失が続き、就業継続困難でひきこもりになった。
「26歳 女性」 中頭蓋窩(がいか)巨大くも膜嚢(のう)胞で2歳時に手術を受けた。軽い片まひがあり、中学時代にいじめられてまひが強くなり、不登校を繰り返した。高校時代からは過呼吸、リストカットが始まり、卒業後は将来への失望がきっかけで手のけいれんが出現。思いを吐き出すことにより症状は抑えられるが、それができないと仕事にも行かず、就労困難。アルバイトはできるが、思うようにいかないと手が大きく震える。投薬しているが、前向きさに欠ける。
「44歳 女性」 中学より体調不良があり、急に倒れる、腹痛などがあり、病院を受診するも原因不明。人間関係が不得手で高校は中退。その後も同様の症状が続き、過呼吸、手のしびれなどもあり、精神科で投薬を受けたが改善せず、テレビを見っ放しの生活で歩けなくなり(生活不活発病?)車椅子生活、生活介護となっている。継続的にリハビリをしているが、変わりない。
「47歳 女性」 体の動きが悪く、食べるのが遅いと幼稚園の先生に怒られ、その後先生に何も話せないという場面緘黙(かんもく)が生じた。小学時代は何とか学校に通ったが、中学時代より腹痛が出現し、不登校を繰り返した。病院を受診するも、原因不明。高校時代は体のしびれ、歩行障害を繰り返しながら何とか卒業。就職したが、集団の中での仕事ができない、理解力がないと言われ、持続する体調の悪さもあり、仕事に就けず年金生活。新しい所に行くとアレルギー反応が出たり、リハビリをすると返って体が動かなくなる。外来で点滴など受けるも変わりない。
おわりに
増えているストレス関連障害は、時代の特徴である。ストレスの増大とスマートフォン、インターネットで人との関わりをあまり持たないなどによる状況判断能力の低下からくる人間関係の脆弱(ぜいじゃく)化が原因と思われる。
人間の基本である人と人とのつながりがなくなり、自分の状況や相手を思うという推察力、想像力が乏しく、コミュニケーション能力、自己解決能力が低くなった。その結果ストレスに弱くなり、ストレスに対応できなくなった。
このストレス関連障害は病気ではなく、人が作った環境や人間関係による現象、反応であるから、自己分析と努力、家族の力、地域の力で解決できる。昔は少なかったのであるから、この現象は阻止することは可能で、便利が進み過ぎて「どの時代の人間関係」に帰ればよいのか分からなくなってしまっただけのことである。
新型コロナウイルスの感染予防のために集団が避けられ、アメリカ大統領選挙を見ても、人間関係とは何か、反省とともに見詰め直し、自然と共存する本来の人間生活を考える時期である。共生はできなのだから。
2020年11月11日 苫小牧民報 掲載