昔は少なかった子どものストレス関連障害(その7)
高橋 義男
(苫小牧市医師会・とまこまい脳神経外科)
高橋 義男
(苫小牧市医師会・とまこまい脳神経外科)
人間社会があまりにも享楽的、自己愛的、利己的になり過ぎ、大人たちは傲慢(ごうまん)、無気力で「集団で生きる動物人間」としての本質を受け継ぐことが難しい時代になった。その結果、子どもたちは相互認知に基づく状況判断、努力、我慢を覚える機会が少なくなり、自己肯定感の醸成ができず、個々となりストレス対応が難しく容易に頭痛、腹痛、まひ、けいれんなどの症状(現象)を出すようになった(ストレス関連障害=身体表現性障害、適応障害など)。その解決は顔の見える、触れ合いのある人間関係であるが、今のSNS(インターネット交流サイト)社会、新型コロナウイルスで注目される密を避けるなどの生活状況の変化はストレス関連障害の病態をさらに難しくする。
今回は義務教育という枠組みが消え、担任などの立場が変わり、本人への支援の仕方が変化する高校以降について報告する。字数の関係で大学、専門学校での実情については詳述できないが、高校時代よりさらに学校側の意向は強く、本人への支援は乏しく、形式上となる。このようにストレス関連障害はその発症時期と経過と環境により対応が異なる。
10.高校生時代のストレス関連障害の実際と経過
「16歳 高校生 男子」
中1の頃から突然倒れ意識障害、右手足にけいれんのような震え、時には歩行困難となり、何度か救急搬送された。MRI(磁気共鳴画像装置)、脳波での検査は異常なし。部活動や家庭状況が発症の要因と思われた。中3で一時症状は消失した。高校生になり、寮生活で同室者との相性が悪く、部活動のストレスもあり、再び同様の症状が出現。学校側の対応は乏しく、心療内科でのカウンセリングと投薬を受けるも改善はなく、むしろ症状が多発。本人は状況を理解して、工夫をしているが、学校側や周囲の態度が変わらないため、発作の形はさらに複雑になり、本人が抜け出せない。母親が付き添いするも登校は難しく、中途退学、引きこもりとなった。
「17歳 高校生 女子」 アルバイトを開始した頃から、常時ではないが周囲から両手の震えを指摘された(本人、母親は気付かない)。真面目な性格で学業、部活動(後輩の指導も含む)は大変だが、しなければならない状況。MRIでの検査に問題はなく、症状は学校でのみ見られ、家庭と学校、中学時代の養護教諭と連携しながら継続受診。推薦による専門学校志望ではなく一般大学受験に替え、アルバイトをやめ、気持ちを切り替え、緊張感と目的意識を持ち、勉強に没頭するようにしたところ、症状は激減した。
ストレス関連障害の周囲状況は、小、中学生時代と高校以降では明らかに異なる。義務教育がなくなると子ども中心の支援体制は乏しく、学校側の体制維持の中での対応となる。相談相手も担任や養護教諭から専任教師、教頭、スクールカウンセラーとなることが多く、子どもの権利を守る体制から学校のシステムを守る体制になり、その内容は形骸化する。このような中で自己肯定的姿勢を何らかの形で本人の努力で作られなければ、不登校、休学、中途退学などとなる。対応の基本は本人の前向きな気持への切り替えであるが、そのきっかけをつかむことは難しい。諦めたり周囲任せにせず、ストレス障害になった本人自身の性格、状況などを分析し、やる気を重視した解決意識を持たなければならない。最低限、卒業はするという状況をつくり出して立ち直らせる。
問題なのは、この時期までにストレスに対する解消能力を身に付けないと状況判断能力、コミュニケーション能力、推察力、展開力の低下を招き、社会に入ることが難しくなることである。
2020年10月28日 苫小牧民報 掲載