感染症と病原体の関係 「目に見えないもの」を意識する
越智 勝治
(・むかわ町鵡川厚生病院)
越智 勝治
(・むかわ町鵡川厚生病院)
最近は新型コロナウイルス感染症に関する報道を見聞きしながら暮らされている
ことと思いますが
報道などで、「正しく恐れる」と言われてもぴんとこないのではないでしょうか。
新型コロナウイルスをはじめ、いろいろな感染症の原因となる
病原体は、ほとんどが「目に見えないもの」です。
普段の生活でも、車が接近すれば注意するでしょうし、雨が降っていれば
傘をさして濡れないようにできます。
しかし、「目に見えないもの」の存在を意識するのは簡単ではないですね。
感染症は、接触・飛沫により人から人へ感染するほか
昆虫や動物を介して感染することもあります。また、食中毒のように
食品を介して感染することもあるでしょう。
私は以前、南極地域観測隊の医療担当として南極で越冬した経験があります。
昭和基地では感染症が極めて少なく、内陸のドームふじ基地では皆無でした。
基本的には健康な隊員のみで越冬しますので、人から人への感染はおきません。
ドームふじ基地は昭和基地から約1000㎞離れた内陸に設けられています。
現在は閉鎖されていますが、当時は南極で最も厳しい環境にある基地と言われていました。
少し前に「新型コロナウイルス、南極除く全大陸に感染拡大」と報じられていましたが
南極はウイルスにとっても過酷な環境です。
ドームふじ基地の標高は約3800m、平均気温―55度の世界です。
我々以外に生命体が存在しません、寒すぎて感染症の原因となる病原体も生存できないのです。
過酷な活動の連続で睡眠も不規則な生活でしたが、誰も風邪をひきませんでした。
ところが越冬を終えて帰国後、「同じような生活をしていたらすぐに風邪をひいたり
他の感染症で体調を崩してしまった。」という話を隊員たちから何回か耳にしました。
病原体の存在しないところで生活していると、感染症に対する意識も低くなっていたのでしょう。
南極で越冬してみて、「目に見えないもの」、病原体の存在を再認識させられました。
日々普通に生活していても、周囲には目に見えないもの、病原体が潜んでいる可能性があります。「目に見えないもの」を意識すること、見えなくても、そこに病原体がいるかもと
考えながら行動する、うがい手洗いを励行して暮すことが、「正しく恐れる」ことの
基本ではないかと考えています。
2020年04月15日 苫小牧民報 掲載