昔は少なかった子どものストレス関連障害(その1)
高橋 義男
(苫小牧市医師会・とまこまい脳神経外科)
高橋 義男
(苫小牧市医師会・とまこまい脳神経外科)
1.はじめに
便利や享楽の追求、情報技術の進歩などによる社会生活の変化は、食生活だけでなく生活内容を変化させ人間の体質に影響を与え、30代~40代の高血圧、糖尿病、脂質異常症など生活習慣病を増加させた。また社会システムの変化は集団から個の重視となり核家族化というだけでなく、利己的な家族感を醸成し、お互いさまをなくし、孤立の流れとなりストレスへの抵抗力を減じた。日常においてこのような傾向は常態化し、一日中テレビやゲームやスマホなどで生活不活発病や引きこもりとなり、不安障害、うつ傾向などを生じさせた。社会変化の影響は子どもたちに強く、状況判断能力の低下、コミュニケーション能力の低下、好きなことしかしない、諦めやすい、切れやすい、飽きやすい、壊れやすいなどの子どもをつくり出した。
本紙上で、昔は少なかった子どもの頭痛、発達障害、愛着障害、ゲーム障害などについて述べてきた。今回は子どもたちの性格だけでなく家族内、学校内の状況などが複雑に絡んで、ストレスとわからないままもがき、苦しみ、その結果、体に症状、現象、反応が現れるストレス関連障害、身体表現性障害について述べる(本稿は、内容の関係から静内町の石井病院精神科の林裕先生にご助言いただいた)。
2.ストレス関連障害と身体表現性障害(精神疾患の診断基準DSM―5により2013年から身体症状症と呼ばれている)
ストレス関連障害はストレスに反応して抑うつ、不安、健忘、フラッシュバック、まひなどの症状を起こすもので、急性ストレス反応、心的外傷後ストレス障害、適応障害に分かれる。
今の時代大人に限らず、子どもの世界にも競争主義、勝利至上主義の流れがまん延しており、学校生活だけでなく、課外活動を含め何においても一生懸命な前向きさが必要とされ、うまくいかない場合など抑うつ気分をはじめ、身体症状まで多彩な現象を出す適応障害が増えている。長く続く場合や症状の強いものは身体表現性障害とされる。
身体表現性障害はストレスなどで体にわかりやすい反応や現象が出る状態で、身体を調べても明らかな原因が見当たらない。病気に関する不安が正常を逸脱している病気不安症、著しい苦痛や機能の障害を呈している身体症状症、まひ、歩行障害などをストレス後に起こす転換性障害、病気を装う虚偽性障害にわかれる。
3.増えているストレス関連障害、身体表現性障害と周囲状況
昔の身体表現性障害は30代~40代の女性に多くみられ、バス停やデパートなど人がいる場所で急に倒れたり、子育てが終わった時期に倒れるなどがほとんどであった。今増えているのは中~高校生、特に中学2年から高校1年生に多く、けいれん、脱力、まひ、意識障害、記憶障害が主症状である。男子に比較的多く、頭痛、めまい、嘔気(おうき)、しびれ感、腹痛などの軽症を含めると、1カ月平均十数人の新患受診がある。
当事者の生活状況として多くみられるのは、家ではいい子であり、クラスの中で頼られていろいろな活動をしている、団体で規律のある種類のクラブ活動をしている、勉強、授業態度もしっかりやっているなどがあり、性格としては真面目で責任感が強く、やることも精いっぱいする。このようなことから、本人の気持ちはいっぱいいっぱいとなっていた。周囲状況としては課外活動、クラス活動、家庭状況が勝利主義、親も指導者も熱意が強く、頑張っていることなどがあった。
4.評価と治療と対応
頭蓋内の評価などで症状に関する所見がないことの確認が必要である。CT(コンピューター断層撮影)だけでは疾患を見落とす場合があり、MRI(磁気共鳴画像装置)は必須である。血液検査、循環器系検査、自律神経検査、脳波は必ず行う。その他症状に応じた評価がなされる。意識障害、手足のまひを訴えて受診したが心因性身体表現とされ経過観察、転院先の病院でMRIで脳梗塞と診断された中学生の裁判事例もある。
安易な投薬、カウンセリングは避ける。病態を知る上で患者さんの背景の把握は重要で、成育歴のみならず教育歴、親やクラブ活動、教室内活動を含めた周囲状況を把握する。それにより治療の方向が決まる。子どものストレス関連障害、適応障害、身体表現性障害は地域の身近な問題であり、決め付ける、押し付けるのではなく、持ちつ持たれつという相手への思いやりが重要である。
(その2は5月15日に掲載します)
2019年04月10日 苫小牧民報 掲載