昔の子どもは頭痛がなかった
高橋 義男
(苫小牧市医師会・とまこまい脳神経外科)
高橋 義男
(苫小牧市医師会・とまこまい脳神経外科)
1.小児の脳の評価、疾患の歴史と現実今から約40年前までは小児の脳神経疾患は懐中電灯を頭に当てたり(透光試験)、脳に空気を入れて(気脳写)で診断していた。今のような頭痛を訴えて受診する子どもはほとんどいなかった。30数年前CT(コンピューター断層撮影)が普及し、新生児(赤ちゃん)も保育器ごとCTの中に入るなどして年齢に関係なく精度の高い脳の検査が出来るようになり、安全な鎮静剤の使用は、子どもの中枢神経診断を容易にした。そして、顕微鏡下手術の進歩も相俟って、多くの中枢神経奇形、中〜重症頭部外傷、脳腫瘊の患児が救われる時代となった。最近の傾向は大人同様外科的治療を必要としない頭痛や軽度発達障害の患児?の受診が増えていることである。この現象は地域にもみられ、上登校など子どもの生活に支障をきたし、社会問題化している。
2.小児の頭痛小児の頭痛は脳や体の疾病による二次性頭痛と関係しない一次性頭痛がある。一次性頭痛は頭皮の血管拡張が原因で、こめかみの辺りがズキズキ痛む、遺伝もみられる片頭痛。決まった時間に突然強い頭痛が生じる群発性頭痛。頭や頚、肩、背中の周りにある筋肉が緊張することにより頭重感、後頭部、耳の後などが痛む緊張型頭痛。生活環境に影響され、起立性低血圧など体の調節機能の未熟性なども関係した、月15日以上の頭痛がある慢性連日性頭痛がある。苫小牧に小児脳外を開設して8年間、頭痛を訴える事の出来る5才以上の二次性頭痛を検討すると、片頭痛、緊張型頭痛は各年齢層においてほぼ同じ発生率であるが、慢性連日性頭痛が小学校高学年からみられ、15才を中心として増加し、それが中〜高生の頭痛発生に大きく関係している。
3.最近の小児の頭痛と対応夜更かしする子どもが増え、ゲームだらけで姿勢が悪くて、甘やかしなどが原因の家庭状況や、人間関係が影響する頭痛が増えている。頭痛の背景として生活や学校を含めた地域社会が関連するのは緊張型頭痛、慢性連日性頭痛、心因性を含めた生活関連性頭痛がある。この3者を診断するには、子どもの緊張を解くように話し、肩や背中を触り筋肉緊張を確認しながら、生活背景まで察していくことが重要になる。患児がオープンに話すことは少ないので頭痛調査票、アンケート用紙に別室で必ず記入してもらうこともポイントである。被虐待があることも稀ではない。医療者側はこれらの頭痛が病気というより、誰でも起こりえるという感覚で対応する。薬も用いるがそれは頭痛を軽減するための手段であって治療ではない。多くの場合本人、先生など周囲の人と診察以外の別の時間を設け、情報交換、カウセリングをして生活習慣の改善などを行っていく。身近な家庭医をつくっていただき、相談して欲しい。
4.小児の頭痛が社会的問題となる理由子ども達が毎日訴えるような慢性頭痛のほとんどは、対症的な治療での完治は難しく、家庭環境や学校などの生活環境全体をみていくことが必要である。メール、パソコンのやり過ぎ、友人関係とそれに伴う睡眠障害が指摘されるが、さらに探っていくと、もっと根本的な問題に直面する。それは親子関係である。親が子どもに無関心になっている、子どもの面倒を見過ぎる、親の情緒が上安定で子どもの気持ちが上安定になる。このように、子どもの頭痛は単なる身体症状ではなく、子ども達の何らかのサインとして判断、対応すべきである。5.自己管理の必要性と地域のあり方さまざまな生活環境を背景に、もがき、苦しみ、頭痛を訴える子ども達。子どもの個々に応じた関わりをもつ必要がある。生活リズムのきっかけを創り、自律と自立を促す。生活リズムが崩れてしまった場合はリズムのヒントを与える。例えば朝6時に起きて、玄関掃除など家の手伝いをして、学校に行く。計画性と目的と見通しを子どもと一緒に創っていく。早起きは体の覚醒の確立で、掃除は目的の為のウォーミングアップである。日常生活のリズムをつけることに成功した例では100%頭痛は解消されていく。自己管理が出来ない子ども達を救うには、家族、医療者や教育者だけでなく、地域の中で育てるという意識をもち、地域で支えていく取り組みが必要である。子どもの頭痛は頭だけを診るのではなく、足元から診ないと解決しない。
2013年09月24日 苫小牧民報 掲載