糖尿病と癌のお話し
熊谷 文昭
(苫小牧市医師会・苫小牧日翔病院)
熊谷 文昭
(苫小牧市医師会・苫小牧日翔病院)
日本糖尿病学会と日本癌学会の合同委員会はこのほど、糖尿病は癌になるリスクの増加と関連があるとの報告書をまとめ、性別、年齢に応じて適切に癌の定期健診を受けるよう推奨しています。糖尿病と診断されたことのある日本人が何らかの癌にかかるリスクは男性で1.27倍、女性で1.21倍であるといわれています。一般に、糖尿病(主に2型糖尿病)は大腸、肝臓、膵臓、乳、子宮内膜、膀胱などの癌と関連があり、特に日本人では大腸、肝臓、膵臓の癌との関連が強いといわれています。その理由として、高インスリン血症、高血糖、炎症などの関与と、加齢、男性、肥満、活動量の低下、赤肉・加工肉の過剰摂取などの不適切な食事、過剰飲酒、喫煙などの共通する危険因子があります。
糖尿病、癌のリスクを減少させるためには、健康的な食事、運動、体重コントロール、禁煙、節酒などが有効との見解を示しています。癌検診に関しては、40歳以上で、胃、大腸,肺は年一回、乳がんで2年に一回、20歳以上の女性で子宮がんは2年に一回の何らかの検診を受けることをすすめています。しかしその他の疾患に関してや、気になることのある方は早めの医療機関の受診が必要です。
血糖コントロールの目標値に関しては、よく耳にするかもしれませんが、HbA1cという検査がよく用いられます。6.0%未満、7.0%未満、8.0%未満の3段階で設定されています。6.0%未満は血糖正常化を目指す際の目標値です。7.0%未満は合併症予防のための目標値で、対応する血糖値は、空腹時血糖で130mg/dl、食後2時間で180mg/dl未満がおおよその目安です。8.0%未満は治療強化が困難な際の目標値で、低血糖などの副作用、その他の理由で治療が難しい場合の目標です。
癌ばかりでなく、糖尿病による合併症を予防し、また進行を阻止すること、さらには糖尿病患者においても、健康な人と変わらない日常生活の質(QOL)が維持され、同様の寿命が確保されることが肝要です。しかし、癌のリスクばかりではなく、糖尿病性網膜症、腎障害、足病変などの合併症で苦しむ患者さんの数は減少していません。最近の統計では、筆者の関わりの深い慢性腎不全で透析をされている患者さんの数は平成24年度で30万人を超え、人口約400人に一人になります。そのうち、糖尿病が原因と思われる方は、昭和58年で15.6%だったのが、平成24年では何と、44.1%と急増しています。癌の予防に限らず、あらゆる意味で健康な人生を全うするためにも、検診を積極的に受け、糖尿病の予防、早期治療開始が重要と思われます。
2013年07月09日 苫小牧民報 掲載